1月21日(月)、町内外から60人もの参加者を迎えて、盛況のうちに終了した「食で地域をつなぐ講演会」。講演会の目的は、フードデザイナーである中山晴奈さんの「知」を、浦河の人々と共有したい、ということでしたが、もうひとつの目的は、中山さんに、浦河の「食」について、深く知ってもらう、ということでした。
実は、今回の講演会が実現したきっかけは、中山さん自身が浦河へ関心を持ってくれたことでした。何か浦河と接点を持ってもらえるかも知れないと、10月に東京でお会いして、浦河の食の魅力について話した後に、「仕事ではなくても、一度浦河に行ってみたい」と、中山さんのほうから言ってくださったことから、講演会をして頂くことにつながったのです。
なので、今回は、中山さんに浦河の食にまつわる資源にできるだけ触れてもらえるように、「うらかわ『食』資源ツアー」とでも言えるようなコースを考え、いろいろな場所にお連れし、いろいろな人に会って頂きました。以下、実際のコースをご紹介していきます。
中山さんは19日(土)の昼すぎに浦河に到着しました。まずは、ランチをと、最初にお連れしたのは「(1)
ぱんぱかぱん」。穏やかな冬の海の見える窓ぎわに座り、穏やかな海を眺めながら、以西さんが焼くパンとホロシリ牛乳を。お客さんが手みやげに持ってきた越冬キャベツを使ったスープをお裾分け頂くというハプニングまであり、「もしここで、突然東京に帰らなきゃいけなくなっても、満足かも知れない」と思わずもらすほど。
次は、浦河の磯場屋さんへ。
「(2)川潟商店」では、前浜で穫れた豊かな魚の品揃えにびっくり。川潟家のご主人、奥さん、息子さんの3人が、中山さんに、かわるがわる魚の話を。中山さんは、海風で干物をつくっていることや、今朝揚がっておろしたばかりのタラの身が、本当につややかなことに驚いていました。その後、お邪魔した
「(3)池田鮮魚店」では、魚はほとんど売れてしまっていたのですが、ご主人からこれまで3年続けてきた
「(4)磯場屋学校」の話を。
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地元では当たり前でも、本州の人にとっては珍しい品揃え |
そのあとは
「(5)三協水産」へ。網元を継ぐために、東京から戻ってきた小西哲平さんから、北海道の鮭についてや、事業の話をいろいろと。中山さんは、漁業自体の存続が厳しい地域のこともよく知っているので、浦河の漁業が「生きている」ことにとても希望を感じていたようでした。
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地域による鮭の特徴の違いをカタログを使って説明 |
そして、最初の夜は、まずは漁師町の家庭料理をとことん味わってもらうため(6)
元割烹旅館のおかみさんの家、塚田家を訪問。中山さんは、はじめて食べた(7)
飯寿司の味の複雑さに驚き、たちポン酢(タラの白子)の新鮮さに驚き、地場の魚の豊富さに驚いていました。地元の魚づくしの食卓を囲みながら、もうすぐ80歳になる雅子さんから、今でも浦河に移住してきた塚田家の初代の奥さんが漬けた飯寿司の香りが忘れられないことなど、家の味をつなぐことについての興味深い話を聞くことができました。
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はじめての飯寿司体験 |
2日目の朝、さまざまな飯寿司を漬けているという(8)
町のお母さんの家に、お話を伺いに行きました。お母さんの半生、若い頃に山に入殖した頃の話は、中山さんにとってだけではなく、北海道で生まれ育った私や協議会メンバーの小山祥子さんにとっても、心揺さぶられるようなお話でした。山から浦河の町におりてきた後に、見よう見まねでつくりはじめたという飯寿司。サメガレイと秋鮭、ヤマメとイワナをそれぞれ一緒に漬けたものを味見させて頂きました。特にサメガレイは、ほとんどチーズのように思えるような味で、発酵の力のすごさに、衝撃を受けました。
午後は、協議会メンバーである冨岡さんの牧場「(9)
リチェズ・ヒルズ」へ。絞ったばかりの牛乳を味見させてもらったり、家畜人工授精士である冨岡さんに、交配についての話を聞かせてもらったりしました。中山さんも、現在乳製品の会社とお仕事をしていることもあり、話が弾みました。
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乳牛たちのプロフィールの前で繁殖についてのお話 |
その後は、牧場の中にあるレストラン「(10)
エヤム」でパスタランチ。私たちが最後のお客だったこともあり、仕事を終えた後の小野里さんと、少しの時間、お話することができました。調理に集中できるように、スタッフは全員、身体にぴったりあったエプロンを制服としてオーダーする、という最初の話だけでも、小野里さんの、食に向き合う真摯な気持ちが伝わってくる濃密な時間でした。
浦河の夜、二晩目は、協議会メンバーによる歓迎会を「(11)
味処三之助」にて。板前さんの手による、浦河産の新鮮な魚介類を堪能してもらいました。また、日中訪問したリチェズ・ヒルズの冨岡さんは、初乳でしかつくれないという牛乳豆腐を持参して参加。はじめての味わいに中山さんも大興奮でした。
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ほっけの背骨までしっかり味わう中山さん |
3日目の朝は、「(12)
日高中央漁協組合の市場」でセリを見学。市場によっては、部外者の立ち入りができないところもありますが、ここではいつも快く立ち会わせてもらうことができます。昨年デビューした若きセリ人や、仲買人や魚屋さんと直接話をして頂くことができました。
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磯場屋さんたちも楽しそうに説明してくれます |
浦河町立第一中学校での授業を終えた後は「(13)
まさご」へ。短い時間でしたが、地元の食材をつかったオリジナル餃子を開発し、全国をターゲットに販売する、浦河の食の起業家と、情報交換してもらうことができました。
講演会を終えた4日目は、講演会にあわせて浦河を訪れてくれた、私と中山さんの共通の友人、
NPO法人ETIC(社会起業家の育成を支援するNPO)の
辰巳さんとの3人で、1日自由に過ごしました。乗馬公園で乗馬を楽しんだ後に「(14)
CO・CO・A」へ。小中学生の放課後の居場所になっているこのお店にある「食」は駄菓子。何をするともなく、ここにいるという子どもたちのモードが場にしみ込んでいるのか、気付けば大のおとな3人もそれぞれに、雑誌をめくったり、青木さんと話したり、ぼーっとしたり。次は、辰巳さんがぜひ行きたいというので「ぱんぱかぱん」を再訪。ここでもまた海を眺めながら、のんびり。閉館間際に
浦河町立郷土博物館と
浦河馬事資料館を駆足で観た後、冷えた身体を暖めに「(15)
カフェアッシュ」へ。私が打ち合わせで抜けていた間、中山さんと友人は、美味しいコーヒーを飲みながら、リラックスして馬道さんのマンガ・コレクションを読みふけっていました。この1日のことを、辰巳さんは「自分ちのようにくつろいでしまえる空間がつくれる女性が3人もいる町」と後で記してくれました。
数えてみたら15アイテムもあった「浦河『食』資源ツアー」でしたが、まだまだ連れていきたい場所、会わせたい人はたくさんいるのです。今回のツアーをベースにもっと充実させて行きたいです。(宮浦宜子)
*2013/2/13 「まさご」を追加しました。