2013年10月13日日曜日

【レポート】地域デザインカフェ Vol.10 ~食を通じて、ひとを幸せに、まちを元気に~

第10回地域デザインカフェ 「食を通じて、ひとを幸せに、まちを元気に」

今年1月から定期開催している地域デザインカフェは、今月で10回目を数えました。
今月のカフェマスター天野洋海(ひろみ)さんは、隣町の新ひだか町で「お料理あま屋」を営まれています。

天野さんのご実家はもともとスーパーを経営していますが、地元を離れて料理の腕を磨いた天野さんが帰ってから程なくして、料理屋をオープンさせることを決意。天野さんはそのとき29歳だったそうです。お店はちょうど今年で開店から丸10年を迎えましたが、開店の日は後に激甚災害に指定されるほどの台風が列島を縦断した日。
団体で予約を受けていたのはよりによって自衛隊の方々…。予約はキャンセルとなり、客入りはなかったと語ってくれました。まさに嵐のなかの門出でした。
開店当初は「全国の旬の食材を楽しめる日本料理のお店」でしたが、数年後「ぜんぶ日高・ぜんぶ静内」をコンセプトに、日高の食材に焦点化する方向へシフトしました。まずは改めて地元に何があるのかを探し、何でも試していく。
すると次第に「日高の食材を味わいたい」という遠方からのお客さんが増えていったそうです。例えば「春ウニ丼」がメニューに加わる毎年5月は、通常時の倍以上のお客さんが来店されるとのことでした。

天野さんは根拠となる具体的な数値も蓄積されていて、この日も参加者に包み隠さず教えてくださいました。ここでは客数まで記載しませんが、少なくともこの時季に『二十間道路』の桜を目的に新ひだか町を訪れる観光客の往来を差し引いても、「春ウニ丼」の効果が現れていることをうかがい知るには十分でした。「『その土地・このお店でしか味わえない』ことが、外から人を呼び込むことにつながる」という言葉に、実感と確信が込められていました。

  
天野さんは今年8月、開店から10年を機に「いろいろやめた」そうです。
本当に自信のあるもの、お客様に食べてほしいものを厳選し、80あったメニューを40にまで絞りました。余計なことをやめることにより、お店全体のホスピタリティの向上もねらいにした決断でした。
チャレンジすることに貪欲で、ダメならやめることもいとわない。
逆に言えば、変化を躊躇わない姿勢が、リセットする・ゼロに戻すという決断をも可能にするのかもしれません。

天野さんのチャレンジは、店舗経営を超えたところでも続けられています。
新ひだか町にはご当地グルメ「桜ロコモコ」があります。このメニューを推進するために一昨年設立された「新ひだか桜ロコモコ推進協議会」は今年の3月、活動の幅を拡大するべく「新ひだかFood倶楽部」に改称され、地域全体で食についての研鑽を深めること、食と観光を結びつけて地域の活性化につなげることを目指して動き出しています。
天野さんは、新ひだかFood倶楽部における大変興味深い試みについても、熱く語ってくれました。その試みとは、「レシピの開示」という形で情報を共有し、地域全体で食のレベルを底上げしていこうというものです。
料理の現場は「見て盗む」ことが当たり前の、いわゆる職人の世界。しかし、そうした寡黙で頑固…といった職人のイメージを、天野さんは身をもって覆してくれます。
「そういうのやめよう」と気さくに語りかけることができ、自らの知識や技術を出し惜しみせずに提供することができる器の大きさに、既存のものを打破していくこれからのリーダー像を見た瞬間でした
地域のなかでさまざまな“仕掛け”を設ける際に、「最初は反対されることもある」というエピソードすら、ほどよく開示する天野さん。しかし、何気ないコミュニケーションのなかで、「やってみると案外楽しい」と思わせる工夫を怠っていません。
「レシピの開示」にしても、“きかれたら教えたい”という誰もがもつ心理に働きかけていることが垣間見えました。相当ハードルが高いように思えることも、「なんだかんだ、みんな教えたいのさ」と笑い飛ばす天野さんでした。


参加者からもたくさんの質問や感想が飛び交いました。食に関する素朴な質問に対しては、プロの技の一端を教えてくれました。天野さんのお話に同調し、「“商売をしていない”お店でなければ田舎ではやっていけない」という言葉で、田舎での商いのあり方に言及する参加者もいました。従業員の教育についての質問には、難しい接遇マニュアルが馴染まなかった経験をもとに、「お客様が喜ぶことを徹底的にやる」というシンプルな方針だけを打ち出しているとのことでした。

実際に「あま屋の従業員が丁寧に見送ってくれて感動した」という感想が別の参加者から寄せられ、天野さんの試行錯誤が実を結んでいることがうかがえました。

結びに天野さんは、食も観光も「最終的には人」だというメッセージを残してくれました。その言葉は「いくら仕組みをつくっても、魂を吹き込まなければ意味がない」こととも重なりますし、「まちづくりは人づくりから」という考え方にも通じます。店舗経営や社会貢献を通して積み上げた経験に依拠するメッセージは、トークは軽快でも、重みがありました。
料理を通して感じる繊細さと、風貌や笑い声から伝わってくる豪快さ。
そのどちらも併せ持っている天野さんの人間的な魅力は、まずはお店を訪れて実感していただきたいです。

天野さん
新ひだかも浦河も、豊かな食資源という点で、似通った風土のまち。
これからもときに刺激しあい、ときに手を取りあって、互いのまちを、そして日高を元気にしていきましょう!!
このたびは本当にありがとうございました。

(協議会メンバー:石黒)
「お料理あま屋」Facebookページ
https://www.facebook.com/#!/shizunai.amaya
「お料理あま屋」ウェブサイト
http://shizunai-amaya.com/
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